海外 SaaS の領収書にインボイスが無いとき — 少額特例と電子帳簿保存法の保存

海外 SaaS の領収書にインボイス(登録番号)が無くても、所得税・法人税の経費にすることには影響しません。消費税の仕入税額控除は、一般課税の事業者は原則としてインボイスが必要ですが、1 回の取引が税込 1 万円未満なら「少額特例」により帳簿の保存だけで控除できます。

2026-09-18 更新。国税庁の公開資料(タックスアンサー、少額特例の概要、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】令和 8 年 7 月)をもとにしています。文中の「問」は一問一答の番号です。税額の判断は事業ごとに違うので、迷う点は税理士か税務署に確認してください。

要点

経費と仕入税額控除は別の話

「経費になる」は所得税・法人税の話です。事業のための支出であることを帳簿と証拠書類で示せればよく、相手が適格請求書発行事業者かどうかは関係ありません。

「仕入税額控除」は消費税の話です。消費税の納税額は、売上で預かった消費税から仕入れで払った消費税を引いて計算します。この引き算に使う仕入れの消費税は、2023 年 10 月からインボイス(適格請求書)と帳簿の保存が要件になりました(タックスアンサー No.6498)。海外のサービスにインボイスが無いと困るのは、この引き算のところだけです。

自分の区分で、そもそも関係があるかが決まる

消費税の区分 海外サービスのインボイスの影響
免税事業者(課税売上高 1,000 万円以下で登録していない) 消費税を納めないので関係ない
簡易課税 納める税額は売上の消費税から一定の割合で計算する。仕入れのインボイスは使わないので関係ない
一般課税(本則課税) 仕入税額控除にインボイスが要る。ここから先の話が関係する

インボイス制度を機に課税事業者になった人が使える「2 割特例」(2026 年 9 月 30 日までの日の属する課税期間)と、その後の個人事業者向けの「3 割特例」(2027 年分・2028 年分)も、売上の消費税の 2 割・3 割を納める計算なので、仕入れのインボイスは影響しません。

一般課税の場合: 海外の Web サービスは「電気通信利用役務の提供」

国外の事業者がインターネット経由で提供するサービスは、消費税法では「電気通信利用役務の提供」として、次の 2 つに分かれます(タックスアンサー No.6118)。

  1. 事業者向け(取引条件などから相手が事業者に限られるもの): 受け取った国内の事業者が代わりに申告・納税する「リバースチャージ方式」。ただし、一般課税で課税売上割合が 95% 以上の課税期間、簡易課税の課税期間、2 割特例・3 割特例の課税期間は「当分の間、なかったものとされる」ので、小規模な事業者の多くは実務上この申告をしません。
  2. 消費者向け(Web サイトで誰でも申し込めるもの。個人事業主が使う SaaS のほとんどはこちら): 提供する国外の事業者が申告・納税する。受け取った側が仕入税額控除をするにはインボイスが必要。

つまり、一般課税の事業者が海外の SaaS の消費税を控除したければ、その海外の事業者が適格請求書発行事業者として登録していて、登録番号入りの領収書を出してくれる必要があります。登録している海外の事業者もあれば、していない事業者もあります。領収書に T で始まる 13 桁があるか、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで番号を引いて確かめます。

免税事業者からの仕入れで使える経過措置(消費税相当額の 80%〜30% を控除できる。80% は 2026 年 9 月 30 日まで、以後 70%・50%・30% と段階的に縮小し、2031 年 9 月 30 日まで)は、国外事業者からの消費者向け電気通信利用役務の提供には使えません(国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について」)。使えるのは、次の少額特例です。

少額特例: 税込 1 万円未満なら帳簿だけでよい

国税庁の少額特例の概要から要点を引きます。

海外の SaaS に当てはめると、月額 1,000〜3,000 円のサービスは 1 回の請求が 1 万円未満なので、登録番号が無くても帳簿だけで控除できます。年額プランで 1 回に 1 万円以上を払うと対象外になるので、控除したい一般課税の事業者は月払いにしておく、という選び方もあります(月ごとの請求を 1 回の取引と見るかは契約の形によるので、迷う場合は確認してください)。

帳簿には、相手の名称、年月日、内容、対価の額という通常の記載事項を書きます。概要ページでは、それ以外の注記は求められていません。

少額特例でも、領収書の保存は必要

少額特例で要らなくなるのは「インボイスの保存」です。メールや Web からダウンロードした領収書 PDF は、電子帳簿保存法の電子取引データとして、別に保存の義務があります(問 30)。保存には「取引年月日・取引金額・取引先で検索できること」が求められ(問 18)、税務職員のダウンロードの求めに応じられるようにしたうえで、専用のソフトが無くてもファイル名に 3 項目を決まった順で入れれば満たせます(問 50)。改ざんを防ぐ措置(事務処理規程を定めて守るなど)は別に必要です(問 30、問 19)。詳しくは ファイル名のルール と 検索要件の解説 にまとめています。

英語の領収書のファイル名の付け方

海外のサービスの領収書は英語で、日付が「Jan 31, 2026」のような形、金額がドル建てのことも多く、日本の書類と同じルールで付けるには次の 3 点を決めておきます。

項目 決め方 例
日付 「Jan 31, 2026」「01/31/2026」(米国式は月が先)を、日本の書類と同じ YYYYMMDD に直す。 20260131
取引先 領収書の発行元の名前を使う。「Notion Labs, Inc.」を「Notion Labs」にするなど、法人格の部分を省くかどうかを決め、同じサービスは毎回同じ表記にする。 Notion Labs
金額 帳簿に記帳した円の金額を入れる。ドル建ての領収書は、カードの利用明細などで確定した円の金額に直す。日本の消費税が別記されている領収書(日本で登録している海外の事業者)は税込の金額。 3300

3 つをそろえると 20260131_Notion Labs_3300.pdf のようになります。取引先名に英語のスペースが入るのは問題ありませんが、Windows で使えない文字(\ / : * ? " < > |)が含まれるときは置き換えます。

まとめ

自分の区分 海外 SaaS の領収書に登録番号が無いとき
免税事業者 消費税には影響なし。領収書は保存する
簡易課税・2 割特例・3 割特例 消費税には影響なし。領収書は保存する
一般課税、1 回の支払いが税込 1 万円未満 少額特例で帳簿だけで控除できる(2029 年 9 月 30 日まで、売上規模の条件あり)。領収書は保存する
一般課税、1 回の支払いが税込 1 万円以上 相手が適格請求書発行事業者でなければ控除できない。経過措置(80%〜30%)も使えない

「経費にならない」ではなく「消費税の控除ができるかどうか」の話で、しかも小規模な事業者の多くには影響しない。そう整理しておくと、海外のサービスを選ぶときに悩まずに済みます。

電帳リネームで英語の領収書に名前を付ける

電帳リネームは、領収書 PDF をドロップすると中の文字から日付・金額・取引先を読み取り、上の表のルールでファイル名を一括で付けて ZIP で返します。英語の日付は YYYYMMDD に直します。外貨の合計を見つけたときは金額の欄を空にして、円の金額を入れるよう案内します。文字が埋め込まれた PDF なら無料で使えます(1 回 5 ファイルまで)。ファイルはブラウザの中だけで処理し、サーバーには送りません。

出典